天国のレストラン
死の当日を短くまとめてみよう。
私は東京渋谷のライブハウスで『SHOUT OUT!』というヒップホップのイベントに参加していた。
私のCREW、Jubal in the Labyrinthのライブが終わり、ユリちゃんと会場を抜け出し、バイクに跨って首都高を突っ走っていると、例の、小説の冒頭に書いた牛乳の海に飛び込むまで一連の、幻想小説顔負けの体験があり、私とユリちゃんは死んだ。
確かに、私もユリちゃんも、クラブでアルコールを少々摂取していたけれど、何故あの日あのようなことになってしまったのかは見当がつかない。
こちらに来る前のことに少しだけ触れておくと、ふたりは真っ白な牛乳色の海をクリオネのように半透明な身体で漂っていたのだ。時の流れも白濁していて、それが一瞬の出来事なのか、あるいは一年もそこを泳いでいたのかわからない。
あれが、三途の川のようなものであったことを、私はここに来て初めて理解した。
珈琲を啜りながらユリちゃんを暫く待ったが、一向に現れる気配がなかったので、私はナポリタンを注文した。考えているうちにふと、彼女は地獄へ落ちたのかもしれない、という思いが脳裏を掠め背筋がヒンヤリとした。
私は30になったばかりの若いふたりの死を想い涙を流した。
涙はとめどなく流れた。レストランのメニューがふにゃふにゃにふやけ、テーブルから床へぽたぽたと滴った。私が泣きやむと目の前に一人の男が座っていた。男はどこか惚けた顔をしていて、ずっとそこに座っていたかのように、こちらに眼差しを向けていた。
「こんにちは、鈴木オル平さん。わたしは神です。あなたをここでお待ちしておりました」
この男、不思議なことに出会ったのは初めてでない気が、私にはした。
私は東京渋谷のライブハウスで『SHOUT OUT!』というヒップホップのイベントに参加していた。
私のCREW、Jubal in the Labyrinthのライブが終わり、ユリちゃんと会場を抜け出し、バイクに跨って首都高を突っ走っていると、例の、小説の冒頭に書いた牛乳の海に飛び込むまで一連の、幻想小説顔負けの体験があり、私とユリちゃんは死んだ。
確かに、私もユリちゃんも、クラブでアルコールを少々摂取していたけれど、何故あの日あのようなことになってしまったのかは見当がつかない。
こちらに来る前のことに少しだけ触れておくと、ふたりは真っ白な牛乳色の海をクリオネのように半透明な身体で漂っていたのだ。時の流れも白濁していて、それが一瞬の出来事なのか、あるいは一年もそこを泳いでいたのかわからない。
あれが、三途の川のようなものであったことを、私はここに来て初めて理解した。
珈琲を啜りながらユリちゃんを暫く待ったが、一向に現れる気配がなかったので、私はナポリタンを注文した。考えているうちにふと、彼女は地獄へ落ちたのかもしれない、という思いが脳裏を掠め背筋がヒンヤリとした。
私は30になったばかりの若いふたりの死を想い涙を流した。
涙はとめどなく流れた。レストランのメニューがふにゃふにゃにふやけ、テーブルから床へぽたぽたと滴った。私が泣きやむと目の前に一人の男が座っていた。男はどこか惚けた顔をしていて、ずっとそこに座っていたかのように、こちらに眼差しを向けていた。
「こんにちは、鈴木オル平さん。わたしは神です。あなたをここでお待ちしておりました」
この男、不思議なことに出会ったのは初めてでない気が、私にはした。