宇宙創造の3分前
「以前にもうお会いしていますよ」
そう言うと神を名乗る男はフランス語で店員に何やら注文をつけた。さっきナポリタンを注文した時に私も気づいたが、ここでは日本語があまり理解されていないようだ。日本人の出入りは少ないのだろうか?
どこでこの男に会ったのかを思い出そうと試みる。
「いつ何処で出会ったのかを思い出そうとしてもきっと難しいはずですよ。あれは宇宙創造以前のことですから、時や日付など、そもそもそういもの自体が存在しなかったわけですから」
「宇宙創造以前?」
私の考えを察するかのように神を名乗る男は語った。いや、神でなくともこのくらいのことは察するであろう。この男、見た目に神を名乗る程の威厳があるわけでもない。勝手に神の名を名乗り人を騙す詐欺のようなことがここで横行しているのであれば、この状況は危険ですらある 。それにしても、宇宙創造以前の出会いとはいったい何なのだろう?
「はい。だいたい時空で換算するところの宇宙創造3分前のイメージです」
「宇宙創造の3分前のイメージ?」
「はい。だいたいそんなところです。あなたの人生は約3分でイメージされたのです」
私の人生はカップラーメンではない。そんなにインスタントに創造されてたまるものか。不快に感ずると同時に私の心は抗い難くカップラーメンを思い描いてもいた。西日の差す日当たりのよいアパートで、私は人生というカップに自らお湯を注いでいた。そしてそれが出来上がると美味しそうに食べ、露まで飲み干すとカップを机に置いてため息を一つつくのだ。このような想像をしていると、タイミングを合わせたかのように店員が神と名乗る男の前にカップラーメンを置いた。
「わたしが神だということの証明もまたこの3分間を利用して致しました。今、あなたがイメージしたことも全てわたしが創造したことです。最初から決められているのです」
このようにして、私と神のやりとりが始まった。神というものがいかに全知全能であるか、ということがさまざまな奇跡により実証されていった。その後私が男の神性を認めると、天国での生活ルールに関するオリエンテーションがとり行われた。私は自分が人間であり、いかに無知であったか、ということに関する告白をし、その旨を書面にサインして提出した。
事務的な手続きを終えると、私はユリちゃんについて神に質問をした。
そしてかなりショックな事実を知らされることになった。
ユリちゃんは首都高での事故後、三途の川を渡り、私よりも早く天国のレストランに来ていたとのことだった。同じ事故にあっても人の死亡時刻が同じとは限らない、と神は私に説明をした。私がユリちゃんの居場所を問い詰めると、「もうここにはいない」の一点張りで拉致があかないので、真実を知る権利は誰にでもあるはず、と主張すると、神は首を縦に振り、真実をつぶやいた。
ユリちゃんには、男がいた。
その男を追って、東京に戻っているとのことだった。もちろん一度死んでいるのだから蘇ったわけではなく、幽霊としてその男のところに出ているらしいのだった。私の胸は激しい嫉妬と動揺でかき乱された。私は、神に自分も幽霊になりたいと必死になって願ったが、幽霊は一日に一人以上創れないとのことだった。何人も創ると出し過ぎたお茶のように薄くなってしまうらしい。私は馬鹿げていると主張した。そもそも幽霊というもの自体、存在感の薄いものではないか、と。しかし神曰く、見えないからといって存在しないわけでも存在感が薄いわけでもなく、霊魂であっても薄れるということは大変危険、とのことだった。私が尚もなんとかしてユリちゃんを追いたいと神に懇願を続けると、少々渋っていたが天使にならばなれると言うので、私は柄に合わぬと思いながらも天使になる決断をした。
私は天使区役所に送られ、注射を一本打たれた。そこで暫く待たされた後、303号室で天使の輪を事務員から装備させられ飛べるようになった。
そう言うと神を名乗る男はフランス語で店員に何やら注文をつけた。さっきナポリタンを注文した時に私も気づいたが、ここでは日本語があまり理解されていないようだ。日本人の出入りは少ないのだろうか?
どこでこの男に会ったのかを思い出そうと試みる。
「いつ何処で出会ったのかを思い出そうとしてもきっと難しいはずですよ。あれは宇宙創造以前のことですから、時や日付など、そもそもそういもの自体が存在しなかったわけですから」
「宇宙創造以前?」
私の考えを察するかのように神を名乗る男は語った。いや、神でなくともこのくらいのことは察するであろう。この男、見た目に神を名乗る程の威厳があるわけでもない。勝手に神の名を名乗り人を騙す詐欺のようなことがここで横行しているのであれば、この状況は危険ですらある 。それにしても、宇宙創造以前の出会いとはいったい何なのだろう?
「はい。だいたい時空で換算するところの宇宙創造3分前のイメージです」
「宇宙創造の3分前のイメージ?」
「はい。だいたいそんなところです。あなたの人生は約3分でイメージされたのです」
私の人生はカップラーメンではない。そんなにインスタントに創造されてたまるものか。不快に感ずると同時に私の心は抗い難くカップラーメンを思い描いてもいた。西日の差す日当たりのよいアパートで、私は人生というカップに自らお湯を注いでいた。そしてそれが出来上がると美味しそうに食べ、露まで飲み干すとカップを机に置いてため息を一つつくのだ。このような想像をしていると、タイミングを合わせたかのように店員が神と名乗る男の前にカップラーメンを置いた。
「わたしが神だということの証明もまたこの3分間を利用して致しました。今、あなたがイメージしたことも全てわたしが創造したことです。最初から決められているのです」
このようにして、私と神のやりとりが始まった。神というものがいかに全知全能であるか、ということがさまざまな奇跡により実証されていった。その後私が男の神性を認めると、天国での生活ルールに関するオリエンテーションがとり行われた。私は自分が人間であり、いかに無知であったか、ということに関する告白をし、その旨を書面にサインして提出した。
事務的な手続きを終えると、私はユリちゃんについて神に質問をした。
そしてかなりショックな事実を知らされることになった。
ユリちゃんは首都高での事故後、三途の川を渡り、私よりも早く天国のレストランに来ていたとのことだった。同じ事故にあっても人の死亡時刻が同じとは限らない、と神は私に説明をした。私がユリちゃんの居場所を問い詰めると、「もうここにはいない」の一点張りで拉致があかないので、真実を知る権利は誰にでもあるはず、と主張すると、神は首を縦に振り、真実をつぶやいた。
ユリちゃんには、男がいた。
その男を追って、東京に戻っているとのことだった。もちろん一度死んでいるのだから蘇ったわけではなく、幽霊としてその男のところに出ているらしいのだった。私の胸は激しい嫉妬と動揺でかき乱された。私は、神に自分も幽霊になりたいと必死になって願ったが、幽霊は一日に一人以上創れないとのことだった。何人も創ると出し過ぎたお茶のように薄くなってしまうらしい。私は馬鹿げていると主張した。そもそも幽霊というもの自体、存在感の薄いものではないか、と。しかし神曰く、見えないからといって存在しないわけでも存在感が薄いわけでもなく、霊魂であっても薄れるということは大変危険、とのことだった。私が尚もなんとかしてユリちゃんを追いたいと神に懇願を続けると、少々渋っていたが天使にならばなれると言うので、私は柄に合わぬと思いながらも天使になる決断をした。
私は天使区役所に送られ、注射を一本打たれた。そこで暫く待たされた後、303号室で天使の輪を事務員から装備させられ飛べるようになった。